能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 俊寛 日本語

あらすじ

 平清盛(たいらのきよもり)を中心に平家一族が栄えていた頃。平家打倒の企てが露見し、多くの人々が罪に問われました。そして、天皇の(きさき)となっていた、清盛の娘中宮(ちゅうぐう)徳子(とくこ)の安産を願って恩赦(おんしゃ)がおこなわれることになり、赦免使(しゃめんし)(ワキ)が鬼界島(きかいがしま)の流人の赦免に向かいます。

 鬼界島(鹿児島県)では、信仰心の篤い丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)(ツレ)と平判官入道康頼(へいほうがんにゅうどうやすより)(ツレ)が、熊野(くまの)の神を島に祀り、島廻りをしながら祈りを捧げています。そこへ(しゅん)(かん)僧都(そうず)(シテ)が現れ、道迎(どうむか)え(参詣人を出迎える宴)をします。時は長月(九月)九日重陽(ちょうよう)。俊寛の持参した水を薬の水(酒)として酌み交わし、三人は今の境遇を嘆いて都を偲びます。

 赦免使が船で島に到着します。成経が読み上げた赦免状には、成経と康頼二人を許すとあり、俊寛の名前が見えません。俊寛は赦免状を何度も見直しますが、やはり名はありません。嘆き絶望して涙を流すばかりの俊寛でした。やがて船出の時となり、俊寛は康頼の(たもと)にすがりつきますが、赦免使は言葉荒く俊寛を制止。せめては向かいの島までと頼み込む俊寛を、船員たちが櫓櫂(ろかい)を振り上げ打ち据えます。船は(ともづな)を押し切って沖へ漕ぎ出し、俊寛は渚に倒れ伏して、声をあげて泣くのでした。都で取り成して帰京を叶えるという、康頼と成経の声を頼みに、俊寛は遠ざかる船を見送りました。

見どころ

 『平家物語』巻三「赦文(ゆるしぶみ)」「足摺(あしずり)」を素材にした能(喜多流では曲名「鬼界島(きかいがしま)」)。鬼界島とは鹿児島県の薩南諸島(さつなんしょとう)にある島のことです。中世には、鬼界島は日本の境界の果てであると考えられていました。そのような島に一人取り残されることになった俊寛の絶望を描いています。見どころは、場面ごとに刻々と変化する俊寛の心情表現です。赦免使の到着から、浜辺で二人を見送った時まで、喜び・期待・不安・絶望・怒り・嘆きなど、極限状態に追い込まれていく人間の心情、そのものが表されます。

 能では普通、生きている成年男性の役は(おもて)をつけませんが、俊寛の役は「俊寛」という専用の面を使用します。俊寛という人物が、過酷な島の暮らしや極限の絶望を経験する役柄であることや、『平家物語』に「僧侶であるのに、心も猛々(たけだけ)しく傲慢(ごうまん)な人」と描写されるような性格などによるのかもしれません。