能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 鵜飼 日本語
あらすじ
安房国清澄(千葉県)の僧(ワキ)が同行の僧(ワキツレ)と甲斐国(山梨県)へ旅をする途中、石和川のほとりにやって来ます。石和の里の男(アイ)に一夜の宿を乞いますが、男は、夜になると怪しく光る物が現れるという、川のほとりのお堂に泊まるよう言います。
夜、舟に乗り、松明を持った鵜使いの老人(前シテ)が近付いてきます。老人は殺生を仕事とする身のつらさを嘆きます。僧と老人が言葉を交わしていると、同行の僧が、二、三年前に同じような鵜使いにもてなしを受けたことに気づきます。しかし老人は、その鵜使いは死んでしまったと答え、最期の有様を語ります。
殺生禁断の石和川で、その鵜使いは夜ごと、鵜飼をしていました。ついに露見し、鵜使いは筵に体を巻き縛られ、そのまま水中に沈められて殺されてしまったのでした。老人は実は、自分はその鵜使いの霊であると明かし、僧に殺生の罪を懺悔し、鵜飼に興じる様を見せます。やがて、老人の霊は闇の中へと消え失せてしました。
里の男が僧の前に現れ、先ほどの鵜使いの話をし、弔いを勧めます。僧は河原の石に法華経の文字を書き付けて、川に沈めて供養をしました。すると地獄の鬼(後シテ)が出現し、法華経の功徳によって、鵜使いが浄土へ救われたことを明かし、法華経を称えます。最後は、僧を敬い供養をすることの徳が説かれ、一曲がしめくくられます。
見どころ
人間が生きるために犯した罪も、法華経の功徳によって消え去り、往生できるという、法華経の教えを称える作品。ワキの僧には日蓮がなぞらえてあります。
前半は、殺生の罪で地獄に堕ちている亡霊が、それでも止むことのない鵜飼の面白さに興じます。殺生をしなくては生きていけない生活、しかしそれは仏の教えに反する業。そのことを老人はよく理解し、苦しんでいます。けれども一方で、死してもなお鵜飼の面白さ、興奮にもとらわれています。これは現代にも通じる人間の性ともいえないでしょうか。見どころは、その鵜飼の様子です。舞台にもちろん鵜は出てきませんが、松明や扇を使って、いきいきと漁の様子を見せます。
後半は、僧の法華経による供養によって、鵜使いを救済した地獄の鬼の演技が見どころです。地獄で罪人を痛めつける鬼というよりも、法華経の功徳を説く、仏法の守護者としての鬼です。威厳に満ちた力強い演技や謡にご注目ください。
〈鵜飼〉は古い歴史のある能で、榎並の左衛門五郎という役者の作った能を、世阿弥が改作したことが知られています。