能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 通盛 日本語

あらすじ

 (いち)()(陰暦の四月十六日から七月十五日まで)の間、阿波(徳島県)の鳴門(淡路島との間の海峡)で修行に励む僧たち(ワキ・ワキツレ)は、毎晩平家の人々の弔いをしています。今夜も()(きょう)をしていると、篝火(かがりび)をともした釣舟がこぎ寄せます。舟中にいたのは、漁師の老人(前シテ)と女(前ツレ)でした。僧の読経を二人は深く聞き入り(たいらの)(みち)(もり)の妻・()(ざい)(しょうの)(つぼね)の末路を語り始めます。一の谷の合戦で戦死した通盛。頼る人を失った小宰相局は、止めようとする乳母(うば)を振り切り、海へと身を投げる様子を語りながら、女は海へと飛び込みます。すると、老人も同じく海の中へと姿を消してしまいました。

 鳴門の浦の男(アイ)が読経の聴聞(ちょうもん)に訪れ、通盛・小宰相局夫婦の物語をして立ち去ります。僧が読経を始めると、通盛と小宰相局の霊が海上に出現します。二人の霊は一の谷の合戦前夜、陣地での最後のひとときや、別れがたく名残(なご)()しい気持ちで戦場へと向かったことを述べます。通盛は最期の様子をみせ、僧に弔いを求めます。二人は読経により成仏できたことを感謝し、姿を消しました。

見どころ

 『平家物語』や『源平盛衰記』にある平通盛と小宰相局の物語を題材とする作品です。戦乱の世に引き裂かれ、添い遂げることが叶わなかった夫婦を描いています。

 前半は、舟の作り物(舞台装置)が出されます。僧のいる場所が岸辺。舞台上のその他の場所は鳴門の海です。舟の(かがり)()は、暗い夜の海岸で読経をする(あか)りとなり、また通盛と小宰相局の霊を成仏へと導く灯火(ともしび)でもあります。闇夜に釣舟の篝火がそっと灯る鳴門の浦の情景を、想像してみてください。

 武将の霊が登場し、(いくさ)に関わったため、死後に修羅道に落ち、永遠に苦しみ続ける有様を見せる作品群を「修羅物(しゅらもの)」と呼びます。笛・()(つづみ)(おお)(つづみ)に奏されて通盛の霊が苦悩を表す「カケリ」という場面、そして敵と戦い最期を迎える様を見せる場面が、後半の見どころの一つです。〈通盛〉の主題は、しみじみとした夫婦の情愛といえます。小宰相局の入水の様子、戦い前夜の二人の語らいをしっかりと描いています。〈通盛〉は、お互いを思う夫婦の愛を主題とする点が特徴的な修羅物です。