能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 絵馬 日本語
あらすじ
時の帝に仕える臣下(ワキ)が、伊勢神宮に宝物を献上するため、勅使として従者(ワキツレ)を伴い、伊勢へ向かいます。一行が伊勢に到着し参詣していると、絵馬を持った老翁(前シテ)と姥(前ツレ)の夫婦がやってきました。勅使が絵馬について尋ねると、老夫婦は今夜この所で絵馬を掛ける行事があり、そのためにやってきたのだと答えます。老翁の持つ絵馬を掛けると日に恵まれ、姥の持つ絵馬を掛けると雨に恵まれると言い、どちらの絵馬を掛けるべきか争いますが、今年は両方の絵馬を掛けることにします。そして自分たちが伊勢の二柱の神だと明かし、姿を消します。
やがて天照大神(後シテ)が天鈿女命と手力雄命(ともに後ツレ)を引き連れて姿を現し、ありがたく舞を舞います。舞い終えると天照大神は天の岩戸の故事を再現し、岩戸に閉じこもります。天鈿女命と手力雄命が舞を見せると、天照大神は面白さに惹かれ扉を少し開けます。そこを逃さず手力雄命が岩戸を引き開け、天照大神を連れ出します。天の岩戸の故事を再現し終えた三神は、それ以来、国土が豊かになり天下泰平の世が続いたことを寿ぐのでした。
見どころ
新春を迎える行事を題材にした、明るくおめでたい能で、前半は謡を中心とした落ち着いた雰囲気のなかで物語が進みます。老夫婦が絵馬を掛ける場面がありますが、節分の夜、伊勢斎宮では絵馬を掛ける行事が行われていたようです。白と黒の絵馬を人々が掛け、白が多いと晴れの日が多く、黒が多いと雨の日が多いという、その年の天候を占う神事であったとされています。
後半は天の岩戸の故事を再現する、動きの多い華やかな内容となります。天照大神の舞の後に、天鈿女命と手力雄命の舞が続き、観客の目を楽しませてくれます。
また、作り物(舞台装置)の宮の使い方にも特徴があります。前半では絵馬を掛ける宮として使いますが、後半ではこれを天の岩戸に見立てて使います。天照大神が岩戸に隠れ、世の中が暗闇となった故事が、作り物によって視覚的にわかりやすく演じられます。扉が開き、天照大神が再び現れる場面にご注目下さい。