能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 敦盛 日本語

あらすじ

 (むさ)(しの)(くに)に住む(くま)(がい)()(ろう)(なお)(ざね)は、(つの)(くに)(いち)()(たに)(兵庫県神戸市須磨区)の合戦で平敦盛(たいらのあつもり)を討ちとりました。しかし敦盛を哀れに思い、(ほう)(ねん)(しょうにん)人の弟子となり出家をして、(れん)(せい)(「れんしょう」とも)法師(ワキ)と名乗っていました。

 蓮生は敦盛の()(だい)を弔おうと()()の浦を訪れます。すると笛の音が聞こえてきます。草刈りの男たち(前シテ・ツレ)が笛を奏でながら家路を急ぐところでした。草刈り男は蓮生に木こりの歌・草刈りの笛の話をします。そのうちに、ほかの草刈り男たちは帰ってしまいますが、一人残った男は、自分は敦盛の(ゆか)()の者であると明かし、消え失せました。

 里の男(アイ)が現れ、一ノ谷合戦と敦盛の最期を蓮生に語ると、蓮生は自分こそ敦盛を討った直実であると名乗り、敦盛のために夜通し念仏供養をすることにします。

 やがて敦盛の亡霊(後シテ)が(かっ)(ちゅう)姿で出現。弔いを感謝し、自らの最期を語ります。

 敦盛の霊は合戦前夜の(かん)(げん)の宴を思い出し、舞を舞い、直実に討たれた様を再現してみせます。そして、念仏の弔いを感謝し、更なる供養を願いつつ姿を消したのでした。

見どころ

 『平家物語』巻九「敦盛最期」などに語られる、十六歳で討死した(たいらの)(あつ)(もり)を主人公にした()()()作の(しゅ)()(のう)。修羅能は生前、戦いに身を置いた武将が、死後も戦い続ける修羅の世界(修羅道)に堕ち、そこでの永遠の苦しみの有様を見せる能。救いを求めて(ざん)()の物語として自らの最期を語ります。

 『平家物語』に描かれた、笛を好む優雅な貴公子という敦盛の性格を活かして作られ、演出も工夫されています。前半の草刈り男は(おもて)を使わず、役者が素顔で演じます。草刈り男の語る笛の話も、敦盛の風雅な性格を暗示させ、草刈り男の吹く笛ならば「青葉の笛」がふさわしいと謡われます。

 後半の敦盛の霊は、薄化粧に(おは)漿(ぐろ)をした貴公子の面を用います。見どころは、敦盛の最期の夜の様子から舞、討死の場面。哀れな平家の境遇がしっとり謡われ、その言葉に即した所作で舞います。

 敦盛の霊は最期の夜の宴((かん)(げん)の演奏)を懐かしみ、舞を舞います。この宴の時に敦盛が笛を吹いたことが謡われ、前半の草刈り男の笛の話と繋がってくる場面です。

 敦盛の霊は最後に、蓮生に太刀を振りかざしますが、「(のり)の友」であることを思い出します。二人は敵であっても、今は念仏の力によって同じ(はちす)(極楽浄土に咲く花)の上に生まれる、つまり成仏することのできる友なのです。