能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 通小町 日本語

あらすじ

八瀬(やせ)の里(京都市左京区(さきょうく)比叡山(ひえいざん)の西の(ふもと)に位置する)に住む僧(ワキ)のもとに、毎日木の実や(たきぎ)にする小枝を届ける里の女(ツレ)がいます。今日も市原野(いちはらの)(八瀬の西方にある山間地)から女が訪れます。女は木の実づくしの歌を謡いつつ、木の実を僧に差し出します。僧が女の名を尋ねると、女は市原野に住む(うば)である自分こそが小野小町の亡霊であることをほのめかして姿を消します。

僧が市原野で小町を弔っていると小野小町の霊(ツレ)が姿を現し、僧に読経(どきょう)を感謝します。そこに深草の少将の怨霊(シテ)が現れ、「その女に(かい)(仏道の者が守る戒律)を授けてはならぬ」と小町の成仏を妨げようとします。かさねて僧が戒を受けて成仏するようにすすめると、少将の霊は、懺悔(ざんげ)のために、小町のもとに百夜通った様子を再現して見せます。

──恋する小野小町から「百夜、私のもとに通い続けたなら、あなたの思いを受け入れましょう」と言われた深草の少将。少将は、一夜通うたびに、(しじ)牛車(ぎっしゃ)(ながえ)を載せる台)に印をつけていきました。小町から「変装して来なさい」と言われれば、少将は笠に簑をまとって、馬にも輿(こし)にも乗らず徒歩で行き、九十九夜まで通いつめます。

そして、願いの叶う百日目の夜、少将は、祝いの酒を飲みたいと思ったものの、飲酒(おんじゅ)戒(酒を飲まない戒め)を守ります。その一度の功徳(くどく)(良い行い)のおかげで、生前の罪業が消滅し、小町とともに二人は成仏を遂げるのでした。

見どころ

小野小町は平安時代の歌人で、六歌仙(ろっかせん)(平安時代、和歌に秀でた六人の歌人)のひとりに挙げられている人物です。情熱的な恋歌を多く詠んだためか、恋多き美女として様々な伝説が生まれました。中世になると、「小野小町は多くの男をもてあそんだため、悲惨な老後を過ごした(もしくは死後地獄に堕ちた)」と語られるようになります。

〈通小町〉は小野小町の伝説に「百夜(ももよ)通い」の伝承が重ねられています。その伝承とは次のようなものです。

男に言い寄られて、女は「私のもとに百夜続けて通ったら、あなたの思いを受け入れましょう」と言います。男は、雨の日も雪の日も通い続けましたが、九十九夜目に病で亡くなってしまうのでした(親が病になって行けなかった等、様々なバージョンがあります)。

この男に「深草少将」という名が与えられ、女を伝説的な美女、小野小町とした物語が〈通小町〉で用いられています。

本曲のみどころは、深草の少将が百夜通いを再現する場面です。笠を手に持ち、闇夜の中を歩く所作によって、恋に狂って死んだ男の執心があぶりだされます。その傍らにいる小町もまた、死後も己の罪業に苦しみ続けているのです。