能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 和布刈 日本語

あらすじ

 今日は早鞆(はやとも)神社の和布刈(めかり)神事の日。毎年十二月晦日(みそか)(とら)の刻に行われるこの神事は、時刻になると龍神の守護で波が引き、神主が水底の和布(わかめ)を刈り神前に供えるというものです。神主(ワキ)と従者(ワキツレ)が神事を行おうとしていると、夕暮れ時、漁翁(前シテ)と海士(あま)少女(おとめ)(前ツレ)が現れます。漁翁は神代の物語を語り始めます。昔、(ひこ)()()()()(みこと)と龍宮の豊玉(とよたま)(ひめ)が契りを交わしたことで海陸は分け隔てなく交流していましたが、見てはならぬと戒められていたお産を(みこと)が見てしまい、豊玉姫は子を残して龍宮に帰り、海と陸の通い路が絶たれたのでした。和布刈神事の日は海と陸の通い路が再び開くのですと、漁翁は語りました。そして自分たちは龍神と天女であると明かし、海士少女は雲に乗り、漁翁は波間に姿を消します。

 海草の精(鱗類(うろくず)の精にも)が現れ、早鞆神社の来歴や和布刈神事について語ります。

 神事の時刻になると、天女(後ツレ)が現れて舞を舞います。やがて龍神(後シテ)が沖から現れて水底をうがち、潮を払いのけたので波は大きく二つに分かれ、海の道が開けます。神主が松明(たいまつ)を振り立てながら、海底へ向かい、鎌で和布を刈って帰ると、ほどなく潮が満ちてもとの荒海となり、龍神と天女は龍宮へ帰っていくのでした。

見どころ

 大晦日に早鞆神社でおこなわれる和布刈の神事が舞台上に再現されます。ワキの神主が実際に和布刈の様子を見せる場面は見どころの一つです。

 陸と海、人間界と龍宮に隔てはなく、人間が和布()(ワカメなどの海藻)を神に供えれば、「波の花」が咲くような和布の繁る豊かな海になることや、千鳥やカモメの飛び交う早鞆の浦の情景も描かれ、海に生きる人々の自然への思いが伝わります。神話では陸と海の繋がりは絶えてしまうものの、しかし、ここ早鞆では天上界、人間界、龍宮の繋がりは途絶えず、神の恵みも豊かであると語られます。それゆえ後半に天上界の天女と龍宮の龍神の出現が果たされるのです。和布刈神事は神の恵みに感謝するものであり、かつ三つの世界の繋がりを示すものといえるでしょう。海藻の精(鱗の精)の舞、天女の美しい舞の後に、龍神が海を割って海底をあらわにすると、神主が鎌を手にして和布を刈り取ります。海藻の精・天女・龍神・神主の演技が次々と展開していくことによって、三つの世界が繋がるめでたさと、来るべき新春が予祝されているともいえます。

 現在、福岡県北九州市の和布刈神社で旧暦の元旦に和布刈神事がおこなわれています。また非公開の神事ですが、山口県下関市の住吉神社にもあるそうです。