能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 小塩 日本語
あらすじ
春、下京辺(平安京の南半分)の男(ワキ)が友人(ワキツレ)と連れ立って大原野(京都市右京区)へ花見に出かけます。小塩山の麓一帯は大原野と呼ばれ、桜の名所です。大原野は花見客で賑わっています。そこに花の枝をかざした華やいだ風情の老人(前シテ)がやってきます。
興味をもった男たちは老人に声を掛けます。会話をするうち老人は『古今集』や『伊勢物語』で知られる歌を口ずさみはじめます。「大原や小塩の山も今日こそは神代の事も思ひ出づらめ」。業平の歌を詠むと、老人は歌の意味を説き、むかしを懐かしみ、嘆息します。さらに花に興じつつ、酒に酔った老人はよろよろして、日暮れのなかでいつの間にか見えなくなるのでした(中入)。
そこに所の者(アイ)が現れます。小塩明神の謂れ、二条の后の参詣に御供した業平の歌などについて語ります。そのうち男は老人が業平の化身ではないかと疑うのでした。所の者はさらなる奇特を見ることを勧めて去り、男は花蔭で仮寝します。すると業平の霊が花見車に乗って出現し、『伊勢物語』の歌を綴って数々の女性遍歴を回想します。そのうち業平は舞の袖を返し、散り紛う花吹雪のなか消え去るのでした。
見どころ
小塩は洛西大原野の地名でここに小塩明神(大原野神社)があります。
小塩明神は藤原氏の氏神である春日大社の神々を勧請したもので、藤原氏ゆかりの社です。現在「京春日」と呼ばれ、親しまれています。
清和天皇の后であった二条の后・藤原高子は、氏神が鎮座するこの地に行啓しました。このとき近衛府の官人として御供したのが在原業平です。このことが『伊勢物語』第七六段のモチーフとなり、さらに、その物語が能〈小塩〉の主な典拠となっています。
この曲は世阿弥の娘婿金春禅竹の作と考えられています。このころ『伊勢物語』は重要な古典とされていました。そのため多くの注釈書(解説書)が作られており、その中では業平と二条の后の恋物語が特に重視されました。〈小塩〉もその影響を強く受けており、『伊勢物語』本文にない内容が多く含まれています。
〈小塩〉の見どころは、在原業平の花やかで優雅な舞です。『伊勢物語』の和歌を数多く引用した「クセ」に続き、「序ノ舞」をしっとりと舞います。また桜の立木や花見車といった作り物(舞台装置)も用いられ、舞台上を彩っている点にもご注目ください。