能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 竹生島 日本語
あらすじ
平安時代、醍醐天皇の治世に、臣下の一行(ワキ・ワキツレ)が竹生島へ参詣の旅に出ます。琵琶湖につくと竹生島へ渡るため、便乗できる舟を待ちます。
そこへ釣り舟に乗った老人(前シテ)と女(前ツレ)が現れます。老人は琵琶湖の漁師だといいます。臣下たちが竹生島参詣のためだと便乗を乞うと、老人は快く舟に乗せます。
弥生半ばの長閑な景色を眺めながら琵琶湖を渡り、島に到着すると、老人と女は臣下たちを竹生島の弁才天の社へ案内します。臣下は女人禁制(女性は立ち入り禁止)の竹生島に女が入ることを不審に思いますが、女は弁才天が男女の分け隔てをしないことを説きます。やがて女は、我こそは竹生島の弁才天であると告げて神殿の中に消えます。老人は、自分はこの湖の主(龍神)であると言うやいなや湖の中へ入ってしまいます。
弁才天の社に仕える男(アイ)が接待のために現れ、臣下たちに竹生島の宝物を見せます。さらに高い岩から水中に飛び込む「岩飛び」を見せ、くしゃみをして帰ります。
夜になると神殿が鳴動して、まばゆい光を放ちながら弁才天(後ツレ)が現れます。
弁才天の奏でる音楽が夜空に響き渡ると、それに答えるように琵琶湖の底から龍神(後シテ)が現れます。弁才天と龍神が神の威光を示し、天下を祝福すると、弁才天は再び神殿の中へ、龍神は湖の底へと帰っていったのでした。
見どころ
「緑樹影沈んで、魚木に上る気色あり、月海上に浮かんでは、兎も波を走るか」。能の中で竹生島の姿を描いた一節です。竹生島は周囲に平地はなく、鬱蒼とした樹々に覆われた花崗岩の岩肌が水中から立ち上がる不思議な形をしています。
「波の上を跳ぶ兎」のイメージは、能の謡にちなんで「竹生島文様」として有名です。能で謡われるのは月の兎のことですが、波頭が白い兎に見えるのは月の光が映って湖面が輝いているということです。この能に登場する龍神と弁才天はそういった美しい自然を象徴しているのかもしれません。
〈竹生島〉は一曲を通して春の琵琶湖を描く能です。その長閑さと雄大さを音楽的にも視覚的にも変化に富んだ演出で見せてくれます。
前半は、舟上から春の琵琶湖を眺める場面が眼目になります。また弁才天に仕える男が軽妙な「岩飛び」の舞を見せますが、くしゃみの擬音が現代と違うのも面白いところです。
後半は弁才天が華やかな「天女ノ舞」を舞い、つづいて龍神が豪快な「舞働(神や鬼が力強さを示す)」を見せます。
金剛流喜多流に伝わる「女体」という小書(特殊演出。弁才天がシテとなり、「楽」という舞を舞います)は彦根藩主だった井伊直弼の創作といわれます。彦根のご当地ソングならぬご当地能というわけです。