能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 籠太鼓 日本語

あらすじ

 松浦(まつら)(ワキ)は、口論のすえ他郷の者を殺害した領民、(せき)清次(せいじ)を投獄していました。ところが、清次はいつの間にか牢(籠)を抜け、脱走。その報告を従者(アイ)から受けた松浦は、清次の妻を連れて来るよう命じます。松浦は清次の脱獄を告げ、妻(シテ)を問いただします。何も知らないと答える妻から清次の行方を聞き出すため、松浦は妻を捕えることに決めます。

 一刻ごとに交代で牢の見張りをし、時の鼓を打つことを命じられた従者は、妻を牢へ入れ、時の鼓を打ち終えると、眠ってしまいます。しばらくすると騒がしい気配に、目を覚ます従者。妻が狂気したことを、慌てて松浦に報告します。夫と離れただでさえ心細い上に、投獄されたことが妻の狂気の引き金となったのです。

 夫への思慕に同情した松浦は、牢から出るよう促します。しかし、妻はこの牢こそ夫の形見だと言い、出ようとはせず、時の鼓を打つことで心を慰めたいと言い出します。妻は鼓を打ちながら夫の面影を追います。その様子に、松浦は夫婦ともに命を助けることを約束します。

 牢から出た妻は、夫が九州太宰府の知人を頼って逃げたことを正直に申し出ます。親の十三回忌に当ることにより約束通り、夫婦ともに(ゆる)すという松浦。松浦と仏へ感謝し、妻は夫のもとを尋ね、元通り夫婦ともに暮らしたのでした。

見どころ

 殺人犯の脱獄から始まる〈籠太鼓〉は、身代わりとして妻の入牢・妻の狂気・赦免と盛りだくさんの内容の、言わば中世の世話物です。

 本作品の舞台九州松浦は、佐賀県から長崎県あたりまでの広範な地域にあたります。松浦の地には、異国へ向かう夫に領巾(ひれ)を振り続けた松浦佐用姫(まつらさよひめ)の伝説で知られています。一方、中世には松浦党と呼ばれる武士団が勢力を誇った地域でもありました。〈籠太鼓〉における身代わりの入牢やワキの松浦の設定などには、中世の実際の慣行がうかがえると考えられています。

 一番の見どころは、夫の身代わりとなり投獄された清次の妻が、夫恋しさ、心細さから狂気する場面です。妻の心の乱れは、緩急ある囃子の伴奏で舞台を廻る「カケリ」や、夫への思慕を籠に鼓が掛けられた時の鼓を打つことで慰める「鼓ノ段」で描かれます。〈籠太鼓〉の「籠」は、「(ろう)()(時を知らせる太鼓)」の「漏」と音が通じることで二つの意味が重ねられています。日没を知らせる六つ、五つ、四つ、真夜中の九つ、と鼓ノ段の詞章に詠み込まれた時刻に耳を傾けつつ、舞台をご覧ください。