能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 富士太鼓 日本語

あらすじ

 萩原の院に仕える臣下(ワキ)が、宮中での管絃(かげん)の会の役に関わる事件の顛末(てんまつ)を述べます。太鼓の役として天王寺(てんのうじ)楽人(がくにん)浅間(あさま)が任じられたにもかかわらず、住吉社の富士という楽人も太鼓の役を望んでやって来ました。そうした富士の振る舞いを憎んだ浅間が富士を殺してしまったのでした。臣下は、富士の縁者に形見を渡すことにし、従者(アイ)に来訪を知らせるように命じます。

 富士の妻(シテ)と娘(子方)が、不安を抱えてながら富士を探し、宮中にやって来ます。臣下が妻に富士が殺されたことを伝えると、妻は涙にくれます。臣下から富士の形見の舞楽の鳥兜(とりかぶと)と衣装を受け取った妻は、太鼓こそ夫の敵であると心を高ぶらせ、太鼓を打ちます。やがて富士の幽霊が妻にのりうつり、「(がく)」の舞を舞います。正気に戻った妻は再び太鼓を打って恨みを晴らすと、夫を忍び、故郷へ帰って行きました。

見どころ

 能〈富士太鼓〉のシテ、妻の心は、不安、悲しみ、後悔、怒り、晴れやかさ、恋しさと移り変わります。能の演技では心情を直接的に表すことはしませんが、能面の微細な角度や、ちょっとした手や腕の動き、足拍子を踏むなど、小さく、少ない動きに心情を反映させていきます。

 また、本作品には子方(こかた)と呼ばれる子供の役者が富士の娘の役として登場します。子供ならではの健気(けなげ)な様子や、大人の役者との謡の掛け合い場面にも注目できます。

 一番の見どころは、妻にのりうつった富士の幽霊が舞う「(がく)」から結末までです。異国情緒(いこくじょうちょ)(ただよ)う囃子がゆったりと始まり、徐々にテンポアップしていきます。数多く踏まれる足拍子も曲を盛り上げます。

 「現之(うつつの)(がく)」(観世流)や「狂乱之(きょうらんの)(がく)」(喜多流・金剛流)の小書(こがき)(特別演出)になると、装束などが常と変わり、「楽」の動きや囃子に変化がつきます。妻の心の乱れや富士の霊が憑いた状態を強調する演出です。