能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 翁 日本語
あらすじ
「翁」は翁が現れ、天下泰平、国土安穏を祈る儀式的な演目です。常の能の演目のように物語が演じられるのではなく、千歳・翁・三番三(三番叟)の謡と舞によって祝福の祈祷がおこなわれます。
様々な点で常の演目とは異なる独特な様式を持っており、「能にして能にあらず」などとも形容されます。
「翁」には、能が完成する以前の古い猿楽の芸の形式が残っており、神聖視されています。
「翁」の上演では、鏡ノ間(揚げ幕の内側)に祭壇を設け、「翁」で使用する面を収めた面箱を祀ります。上演直前にも出演者全員が神酒をいただいたり、清めの塩をかけるなどの神事があります。幕が上がると出演者全員が橋掛りから列になって登場し、翁の役が正面に向かって深々と礼をします。初めに翁の役が呪文のような文句を謡い、続いて千歳が颯爽と舞い謡います。千歳の舞の間に舞台上で翁面をつけた翁が立ち上がり、荘重な舞を舞います。その後、三番三(三番叟)が登場し、掛け声を発しながら「揉ノ段」という舞を舞い、鈴を振りながら「鈴ノ段」を舞い収めます。
見どころ
「翁」は能が成立する以前の猿楽の本芸と考えられています。それゆえ、常の能の演目とは異なる点が数多くあります。常の能では、地謡は舞台右手奥に座りますが、囃子方の後ろに座ります。また常の能の小鼓は一人ですが、「翁」では三人の鼓が一緒に演奏します。翁の着ける面の白式尉、三番三(三番叟)の黒式尉は共に神聖な物と見なされ、それらの面を演者は舞台の上で着けて神の役となります。ほかにも「翁」の出演者は皆、常の紋付き袴や裃姿ではなく、素襖や直垂といった礼装姿で登場するなどの違いがあります。
翁面は他の演目で使用される面と異なり、下顎が切り離され、上顎と紐で結び付けられています。皺やぼうぼうの眉、黒目と白目の境がなく全体がくり抜かれた目などが特徴です。黒式尉の面も白式尉と同様に上顎と下顎が切り離され、紐で結びつけられた形状です。
世の中の平和や祝福を祈る「翁」では、呪文のような文句や、鶴・亀・万歳楽・千秋楽などのおめでたい言葉が出てきます。また、若者らしい千歳の颯爽とした舞、翁の厳粛な舞、三番三(叟)の躍動感ある「揉ノ段」と、静から動への変化が楽しい「鈴ノ段」というように、それぞれの舞も特色もはっきりしています。囃子の音色も舞の雰囲気に合わせて変わり、謡と舞を盛り上げていきます。
「翁」は新年や舞台披きなど祝賀の機会に演じられるおめでたい演目です。