能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 半蔀 日本語
あらすじ
都、紫野の雲林院(現在の京都市北区大徳寺のあたりにあった寺)の僧(ワキ)が夏の座禅修行で仏に捧げた花の供養をしていると、忽然と女(前シテ)が現れます。女は白い花を供えると、花の名を夕顔と教え、自分は五条あたりに住んでいた者だと正体をほのめかし、活けてあった花の陰に消え失せました。
雲林院の近くに住む男(アイ)が花供養にやって来ます。男は僧に『源氏物語』の光源氏と夕顔の上の恋物語を語り、僧の出会った女は夕顔の霊であろうと言い、五条あたりへ行くことを勧めます。
僧は五条を訪れ、半蔀(格子状の上部を外側へ上げ開く建具)の庵を見つけます。夏が終わった初秋の草深く寂しい景色。半蔀の内から夕顔の霊(後シテ)の、秋の夕暮れの景色を謡う声がします。やがて半蔀を押し上げて、夕顔の霊が姿を表します。夕顔の霊は、光源氏と出会った時、扇に白い花を扇に載せてさし上げたこと、花の名を夕顔と教えたことが、二人の契りになったことを語り舞います。そして源氏の詠んだ歌「折りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見えし花の夕顔」を思い出して舞を舞います。やがて夜が明け、夕顔の霊は再び半蔀の内へと消え、僧の夢も覚めたのでした。
見どころ
『源氏物語』「夕顔」の巻に描かれる光源氏と夕顔の上の恋物語に取材した能。夕顔の霊が源氏との出会いの時を思い出して、源氏をひたすら懐かしみ、恋心を語り舞います。
二人の恋の契機となった(女の呼び名ともなった)夕顔の花が付いた、半蔀の作り物(舞台装置)にご注目ください。開閉の仕組みもポイントです。作り物には夕顔の実である瓢箪が付けられることもあります。
一番の見どころは、夕顔の霊の舞。源氏との恋物語を語り舞うと、そのまま源氏の詠んでくれた歌の初句を謡い、「序ノ舞」を舞います。語り舞の中には、源氏に夕顔の花をさし上げるような動きをする場合もあり、ひたすらに源氏を慕う夕顔の心が凝縮された一連の舞といえます。〈夕顔〉の主人公の正体については、前半の女は花の蔭から現れ、そして消えていくことから、夕顔の花そのものとも解釈できるかもしれません。小書(特別演出)「立花供養」では、花供養の場面に本物のいけばなが置かれます。前半の女がこのいけばなに白い花を差し入れることもあります。さらに場面が五条に移っても、いけばなはそのまま舞台に設置されていることもあり、舞台を華やかに彩ります。すでに『源氏物語』の中で夕顔の上という女性と夕顔の花の一体化は感じられますが、能はその一体化を視覚的に見事に表現しているともいえるでしょう。