能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 内外詣 日本語

あらすじ

 季節はうららかな春。天皇の命を受けた勅使(ちょくし)(ワキ)が従者たち(ワキツレ)を連れて、都から伊勢国(現在の三重県)・伊勢神宮へ向かいます。勅使らが伊勢神宮に到着すると、境内で神主(前シテ)と巫女(シテツレ)に出会います。神主たちは、伊勢神宮の神を賛美し、信仰心には正直さが大事だと説きます。勅使の求めに応じ、神主は祝詞(のりと)をあげて天下の太平を祈ります。さらに、伊勢神宮に(まつ)られる(あま)(てらす)大神(おおみかみ)の威徳を(たた)え、主君に忠義を尽くすこと、親に孝行する大切さ、友情を保つ心待ちなど、人としての正しい生き方について述べます。

 神主の話に心を動かされた勅使は、巫女に神楽(かぐら)を舞うよう望み、巫女は(へい)を振り立てながら優美な神楽を舞います。神主(後シテ)は装束を改めて再び現れ、豪壮な獅子舞を舞うと、つづけて巫女が軽やかな舞を舞います。夜明けとともに五色(ごしき)の雲が東の空にたなびき、太陽が姿を現します。伊勢神宮が朝の光に照らされて光り輝くさまは、繁栄する御代(みよ)の春を言祝(ことほ)いでいるかのようです。

見どころ

 「内外詣」は、前半の祝詞(のりと)をあげる場面、後半の神楽(かぐら)・獅子舞・()ノ舞と見どころの多い作品です。

 舞台である伊勢神宮は三重県にあり、(あま)(てらす)大神(おおみかみ)(日の神)を祀る内宮(ないくう)と、豊受(とようけ)大神(のおおみかみ)(農業神)を祀る外宮(げくう)などからなっています。作品名の「内外」とは伊勢神宮を指します。

 この作品の眼目は神楽と獅子の舞です。元来、神楽は神前で捧げられる舞楽を指し、能にも取り入れられました。(へい)を持った巫女が、独特のリズミカルな拍子にのって優美な舞を舞うのが特徴です。また、獅子とはライオンのことではなく、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)(智恵を司る仏)がすまう浄土・清涼山(しょうりょうざん)にいる霊獣のことです。その獅子が戯れ遊ぶさまを、緩急つけたダイナミックな舞によって表現します。本作品は神主が獅子舞をまねて舞うところに特色があります。

 本作品の原曲は江戸時代前期の金剛流の大夫(たゆう)・金剛又兵衛勝長(長頼とも)が作りました。勝長は早業が得意で「足早又兵衛」という異名をとった人物です。金剛流は「舞金剛」といわれるほど舞の所作・型に特徴のある流儀で、そのような特色は勝長の時代あたりから深まった、と言い伝えられています。古くは「参宮」という作品名でしたが、明治時代になって「内外詣」と改められたようで、能としても上演されるようになりました。現在は金剛流のみが上演曲としています。