能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 石橋 日本語

あらすじ

 寂昭(じゃくじょう)法師(ワキ)は唐の国へ渡り、清涼山(しょうりょうせん)の石橋を訪れます。石橋の向かいは文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の世界です。寂昭は人に石橋の(いわ)れを尋ねた後に、石橋を渡ることにします。深い山の中、木こりの童子(又は老人)(前シテ)が近づいてきました。

 石橋は険しい渓谷に架かり、幅は狭く、下には深い谷川が激しい勢いで流れています。童子は石橋を渡ろうとする寂昭をたしなめると石橋の様子を語り、さらなる奇瑞(きずい)を待つように告げて消え失せます。

 文殊菩薩に仕える仙人(アイ)が現れます。仙人は、石橋の風景を述べ、獅子(しし)がやって来ることに気付き、立ち去ります。

 やがて獅子(後シテ)が出現し、勢いのある様を見せ、牡丹(ぼたん)の花に(たわむ)れ舞うと、獅子の座に納まります。

見どころ

 能〈石橋〉は豪快な獅子の舞によって、世を寿(ことほ)ぐおめでたい能です。能〈石橋〉は専用面「獅子(しし)(ぐち)」を付けた獅子、豪華な装束、美しい牡丹の(つく)(もの)(舞台装置)など、見た目の華やかな作品です。祝いの気分をさらに盛り上げるために、前半が省略されて、寂昭(じゃくじょう)が登場するとすぐに後半に接続する形式でよく上演されます。このような上演形式を「半能」といいます。

 人間の世界と文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の浄土(世界)の間に架かる石橋。その周りに咲き乱れる牡丹の花。そこに現れる霊獣の獅子の舞が見どころです。前半は深い山、深い谷に架かる石橋の様子を謡で聞かせます。後半は獅子の激しい動きが連続しますので、ぜひ舞台にご注目ください。橋掛(はしがか)りの欄干(らんかん)を使った演技や(かしら)を激しく振るなど、非常に特殊な動きをします。囃子も旋律やリズムに独特の点が数多く、緩急もつきます。口伝や秘伝も多く、そのため能楽師にとっては、大事な能として扱われています。

 〈石橋〉は室町時代に作られた後、しばらく途絶えていましたが、江戸時代の初めに復活した能です。それも影響しているのか、〈石橋〉には様々な演出があります。小書(こがき)(特別演出)として「大獅子(おおじし)」「師資十二段之式(ししじゅうにだんのしき)」や「連獅子(れんじし)」「和合(わごう)連獅子」等があり、白と赤の二頭、白一と赤三頭など、獅子の(かしら)の色と数にバリエーションがあります。白の獅子はどっしりとした演技で、赤の獅子の親とみなされます。(かしら)や数の変化によって、山や藁屋(わらや)の作り物が出されたり、獅子の舞の長さや動き、石橋や牡丹の作り物なども変わってきます。

 後に歌舞伎舞踊「(れん)獅子(じし)」の元となりました。