能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 賀茂 日本語
あらすじ
播州（兵庫県）室の明神の神職（ワキ）が従者（ワキツレ）を連れて、都の賀茂の社に参詣します。
そこへ里の女たち（前シテ・前ツレ）が清らかな御手洗川の水を汲みにやって来ます。神職は、川辺の祭壇に白羽の矢が立てられている謂われを尋ねます。女はこの矢は賀茂のご神体であると答え、神の物語を語り始めました。
昔、賀茂の里に住む秦氏の女（秦の氏女）が、朝夕に御手洗川で水を汲んで神に捧げていると、ある時川上から白羽の矢が流れ来たので、女は矢を持ち帰ります。すると女は懐妊し男子を出産します。人々がこの子が三歳の時に父のことを尋ねると、子は矢を指し示し、矢は雷（鳴神）となりました。そして子が別雷の神となり、母も神となったので、この三柱を賀茂三所の神というのです、と。
女たちは賀茂川上流の貴船川、大堰川、戸無瀬などの川の名をあげて、水辺の美しさを謡って水を汲むと、神の心を思いやることを勧めます。自分たちは神の化身であるとほのめかして消え失せました。
賀茂の明神に仕える末社の神（アイ）が現れ、舞を舞うと、今度は御祖の神（後ツレ）が姿を現し、舞を見せます。やがて大地が震動し、別雷の神（後シテ）が出現。
別雷の神は神の威光を見せ、雷鳴を鳴り響かせて五穀豊穣、国土の守護を約束します。御祖の神は糺の森へと飛び去り、別雷の神は天へと昇って行きました。
見どころ
賀茂の社は上賀茂神社（賀茂別雷神社）と下鴨神社（賀茂御祖神社）の二つで一体の社で、都の守護神として古代より現在に至るまで信仰を集めています。葵祭でも有名。下鴨神社の境内に糺の森があり、御手洗川が流れています。ここが能の舞台です。
前半の見どころは、女たちが謡う川尽くしの水汲みの歌。貴船川の白玉の水しぶき、大堰川の紅葉、清滝川の深雪という赤と白の色の対称も印象的。
夏から秋へ移り変わる季節の清々しさが漂います。清らかな水の流れは、水を汲む女たちの心をも表しています。水を汲むこと自体が、神の心を汲みとることに通じているのです。
後半は華やかな御祖の神の舞（「天女ノ舞」）と、力強い別雷の神の動き（「舞働」）にご注目ください。雷は雨を運び、五穀豊穣には欠かせないものです。雷が「ほろほろとどろとどろ」と響き渡る様子を、ノリのよいリズムの謡の掛け合いで表現します。