能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 大会 日本語

あらすじ

 (とび)に化けた大天狗は柿の木から落ち、京童たちに捕らえられ、命を奪われそうになりました。そこに比叡山(ひえいざん)僧正(そうじょう)が通ります。僧正は鳶の命を取ろうとする童らに殺生(せっしょう)を犯してはならないと説きます。しかし童らは鳶を解放しません。僧正は自身の持ち物との交換を提案して鳶は解放されるのでした。能はこの後日譚(ごじつたん)を中心とします。

 比叡山の僧正(ワキ)のもとに山伏(前シテ)が尋ねてきます。山伏は命を助けられた御礼に望みを何でも叶えてくれると言います。僧正は釈迦(しゃか)霊鷲山(りょうじゅせん)での説法を目の当たりにしたいと希望します。お安い御用と引き受けた山伏は「決して信心を起こしてはいけない」と念を押し、姿を消します(中入(なかいり))。この山伏こそ大天狗でした。

 そこに大天狗に仕える木の葉天狗(アイ)が現れ、大天狗が命を助けられた様子を語ります。その後大天狗(後シテ)が現れて魔術をつかいます。天から音楽が響き釈迦が姿を現します。そして目の前に釈迦の説法が再現されるのでした。じつは天狗が釈迦に扮しているにすぎません。しかし僧正はその荘厳な雰囲気に思わず信心を起こし、涙を流して合掌します。すると、突然、天地が震動して帝釈天(ツレ)が出現し、僧をだました天狗を()らしめます。魔力を失った天狗はふらふらになって洞窟へと逃げ去るのでした。

見どころ

 絢爛豪華な視覚的作品です。「大会(だいえ)」とは釈迦が霊鷲山(りょうじゅせん)で行った説法のこと。作り物の一畳台の上に椅子をすえ、釈迦の説法を再現します。さらに近年、大天狗に仕える木の葉天狗が後半まで居残り、(おもて)をかけ羅漢や菩薩(ぼさつ)に扮し、脇を固める演出もなされます。

 後半、のびやかな謡で荘厳な大会の世界を表現します。しかしそれも束の間、帝釈天の登場で一変し、天狗は追い回され散りぢりになります。目の前の世界が突如ひっくり返され、その劇的転換のために「早替(はやがわ)り」が効果的に用いられます。天狗は釈迦に扮するため、天狗の扮装の上に釈迦の扮装を重ねて登場します。舞台上でスピーディに変身するためです。(おもて)を重ねているので、演者の視界は普段以上に狭くなり、呼吸も大変苦しいと言われます。帝釈天の出現で天狗はもとの姿に戻って逃げます。

 また、この曲では間狂言が効果的に用いられます。天狗が僧正に恩返しをする理由は、能の前半でははっきり示されず、木の葉天狗の語りの中ではじめて語られます。間狂言はただ前半と後半をつなぐだけでなく、能全体の展開上不可欠な役割を担っています。語りの内容にはいくつかバリエーションがあり、天狗が悪童らに捕らえられる経緯が異なる場合があります。