能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 嵐山 日本語

あらすじ

 京都嵐山(あらしやま)の桜は、桜の名所奈良の吉野山(よしのやま)から移し植えられた木です。みごとに咲いた嵐山の花を見るため、勅使(ちょくし)(天皇の使者、ワキ)が従者(ワキツレ)を連れて嵐山にやってきます。勅使たちが花を眺めていると、そこへ(ほうき)を持った老人(前シテ)とその妻(前ツレ)が現れます。老夫婦は、花の下を掃き清め桜の世話をする(はな)(もり)のようです。夫婦が桜の木を崇拝していることに驚いた勅使は、その理由を訊ねます。

 すると夫婦は、嵐山の桜が吉野という神仏が守護する聖なる山から来た神木であり、そのためこの山の花は風に吹かれても散ることがないと語ります。そして自分たちが木守(こもり)勝手(かつて)という吉野の神であることを明かし、夕暮れの中、雲に乗って南の空へと消えてしまいます。

 蔵王(ざおう)権現(ごんげん)の末社の神(アイ)が現れ、桜の由来を語り、軽やかな舞を舞って退場します。

 夜になると、木守(こもり)明神(みょうじん)(後ツレ)と勝手(かつて)明神(みょうじん)(後ツレ)が現れ、勅使に舞を見せます。続いてまばゆい光とともに吉野金峯山(きんぷせん)の蔵王権現(後シテ)が現れます。神々は花とたわむれ、栄える春を(たた)えたのでした。

 蔵王権現は修験道が吉野で生み出した神で、木守・勝手明神は吉野山に鎮座する神です。

見どころ

 〈嵐山〉は見た目が華やかな能です。桜の立ち木(造花の桜。作り物といいます)が舞台の正面に置かれ、春の盛りを視覚的に表現します。

 見どころは後半。子守明神と勝手明神の「天女ノ舞」と、蔵王権現の力強い舞です。子守・勝手は桜の枝を持って登場し、二人で舞を一緒に舞います。能の舞は一人で舞うことが多いですが、ここでは後ツレ二人の「相舞(あいまい)」となり、舞台上は華やかな雰囲気に包まれます。その後、後半の主役蔵王権現が加わり、子守・勝手とは対照的な力強い演技を見せます。

 〈嵐山〉は、視覚的効果を狙った演出によって、華やかな舞台になるよう工夫されている能なのです。

 特殊演出(小書(こがき))には「白頭(はくとう/しろがしら)」があり、いつもは赤頭を着けて現れる蔵王権現が、白頭を着けて現れます。所作も随所で変わり、威力をより強く感じさせる演出になります。

 間狂言(あいきょうげん)は、吉野蔵王権現(ざおうごんげん)末社(まっしゃ)の神が桜の謂われを語り、勅使のために舞うという内容ですが、「猿聟(さるむこ)」という特殊演出になると、全く別の間狂言になります。嵐山の猿と吉野の猿の結婚が人間風に描かれ、すべての台詞(せりふ)が「きゃっきゃっ」という猿の言葉で演じられます。