能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 水無月祓 日本語
あらすじ
都の下京あたりに住む男(ワキ)は、播磨国(現在の兵庫県)室の津に滞在中、一人の遊女と恋仲となり、結婚の約束を交わしました。男が都に戻った後、女を迎えにやったところ、女は行方知れずとなっていました。
再会を願う男は、夏越の祓(水無月祓)の日に下鴨神社へ参詣することにします。道中、上京に住む男(アイ)から、神社にある糺の森で夏越の祓について面白く語る狂女のことを聞きつけ、一緒に下鴨神社に向かいます。予想通り、そこで狂女(シテ)と出会います。狂女は夫との再会を願っている様子です。男が狂女に夏越の祓について尋ねると、狂女はその由来やご利益について語ります。そして、茅の輪をくぐってけがれを清め、神に参詣することを勧めます。
男が狂女に烏帽子をつけて舞うよう頼むと、狂女は夫と再会することを祈りながら舞います。やがて、狂女は乱れた我が姿を恥じ、倒れ伏して涙を流します。男は、この狂女こそが結婚の約束を交わした女だと気づきます。二人は、賀茂の神のおかげで無事再会し、ともに帰途に着くのでした。
見どころ
作品名の「水無月祓」は毎年六月晦日(月の最終日)に行われる神事で、「夏越の祓」(旧暦では六月までが夏)とも言います。この神事は古代の朝廷で行われた「大祓」を起源としています。水無月祓は、茅で巨大な輪をつくり、そこをくぐると半年間の罪障・穢れが祓われるという「茅の輪くぐり」を行う行事です。現在も下鴨神社などで「茅の輪くぐり」は行われており、夏の風物詩となっています。通常、狂女の役柄は笹の枝を持つことになっていますが、本作では、小さな茅の輪を結びつけた麻の枝を持ちます。
本作の舞台は賀茂社二社の一つ、下鴨神社です。賀茂の神は縁結びの神として親しまれており、男女が再会を祈るのにふさわしい場所でした。詞章で繰り返される「御手洗川」は潔斎の場として知られ、夏の盛りに清水の涼しさを感じさせます。
本作のみどころは、前半の「カケリ」、後半の「中ノ舞」でみせる狂女の恋心です。男を想いつつも揺れ動く心や(「カケリ」)、男との再会を願って舞う姿は(「中ノ舞」)、観る者の心を打ちます。舞を舞う前に、舞台上で烏帽子をつけることで(「物着」)、狂女から男装の芸能者へと変貌する演出も、見どころのひとつです。
本作は観世流のみの上演曲です。江戸後期の十五世観世大夫・観世元章によって観世流の所演曲に組み入れられました。