能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 頼政 日本語

あらすじ

 旅の僧(ワキ)が宇治の里を訪れ、老人(前シテ)と出会います。宇治の名所を問われた老人は、一旦は断りますが、宇治川の辺りの名所を教えてくれました。そして老人は平等院(びょうどういん)の「扇の芝」へと案内し、その由来を語ります。昔、平家との合戦に敗れた源頼政(みなもとのよりまさ)が自害した跡が「扇の芝」なのでした。さらに、今日はちょうどその戦の日にあたると老人は言い、自分は頼政の霊であると明かし、消え失せました。

宇治の里に住む男(アイ)が現れ、謀反の経緯や宇治の合戦を語ると、僧に頼政の供養を勧めて立ち去ります。供養をする僧の前に、出家をした老人でありながら甲冑を身に着けた頼政の霊が現れ、宇治の合戦の有様を語り始めます。

 頼政は高倉の宮(以仁王(もちひとおう))に平家への謀反を勧めるも、企ては露顕し、頼政たちは平等院へと落ち延びました。頼政軍は宇治橋の板を外し、平家軍を待ち受けます。平家軍は田原(たわらの)(ただ)(つな)の指揮のもと宇治川を渡って押し寄せ、頼政軍は退却。頼政は辞世の歌「埋木の花咲くこともなかりしに、身のなる果てはあはれなりけり」を詠み、平等院の芝に扇を敷き自害したのでした。

 語り終えた頼政の霊は、さらなる供養を願うと、「扇の芝」の草蔭に姿を消してしまいました。

見どころ

 能〈頼政〉は『平家物語』をもとにした世阿弥(ぜあみ)の作品です。源頼政は平安時代末期の武将。和歌にも秀でた文武両道の人物。源氏でありながら平治(へいじ)の乱では平清盛(たいらのきよもり)側に与するも政治的に不遇で、老年に至りようやく昇進が叶いました。その後、頼政は高倉の宮(以仁王(もちひとおう))に平家打倒を勧めますが、計画は未然に発覚。宮と頼政方は奈良へと逃れます。その途中、宇治の平等院で平家と合戦になったのでした。頼政が自害をした跡である「扇の芝」の逸話は、『平家物語』には見えず、中世のその後の伝承から〈頼政〉に取り入れられたとされます。

 舞台となる宇治は『源氏物語』宇治十帖(うじじゅうじょう)でも有名な土地です。それゆえ〈頼政〉の宇治の名所教えの場面には「小島が崎・橘の小島・柴舟」など、『源氏物語』に所縁のある言葉が出てきます。そのような言葉によって、月明かりで朧おぼろとした宇治をより風雅に描いています。

 後半の見どころは、宇治の合戦の激しさと頼政の無念です。力強くテンポのよい謡で進行します。頼政の霊は、床机(しょうぎ)(腰掛け:能では(かずら)(おけ)という小道具を使用)に座り、合戦の全体を見渡すかのように、足拍子や扇の所作を伴った語りと謡で表現します。橋の上の戦いや川を渡ろうとする平家の様子が次々と展開し、源平の戦いが合戦絵巻のように広がります。壮大な戦いの後の自害は一転、頼政自身に視点がフォーカスされていきます。老武者の執心が凝縮した場面です。