能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 船弁慶 日本語
あらすじ
源義経(子方)は、源平の戦いで平家を滅ぼしたのち、兄頼朝と不和となります。そのため都に居づらくなった義経と武蔵坊弁慶(ワキ)、家来たち(ワキツレ)は、都を脱出して大物の浦へ逃れます。弁慶は、義経がいつまでも恋人の静(前シテ)を伴っているのは望ましくないと義経に進言をし、都に帰りなさいという義経の言葉を静に伝えます。初めはこの言葉を信じられなかった静でしたが、義経と話をし、弁慶を疑ったことを恥じ入ります。別れの酒宴が始まると、静は舞を舞い、別れを悲しんで涙にくれます。
義経たちは船頭(アイ)の用意した舟に乗り込み、海へ漕ぎ出します。やがて風が変わり、海が荒れてきます。すると壇ノ浦で滅んだ平家一門の姿が海上に浮かび上がり、平知盛の怨霊(後シテ)が現れ、長刀を手に襲いかかってきます。義経は太刀を抜いて立ち向かい、弁慶は懸命に呪文を唱えて怨霊を退散させます。
見どころ
実在の武将源義経の物語を素材とした、見どころの多い作品です。前半の見どころは、中世に流行した「白拍子」という芸のプロフェッショナルであった静の舞です。プロの芸能者なので静は自分の芸に誇りを持っています。しかし今は恋しい義経との別れの場面でもあります。美しい舞と静の思いが重なり合いに注目できます。また弁慶・義経・静、三者それぞれの心の動きも興味深いところです。
前半と後半の間では、急に荒れていく海上の風景を船頭と囃子方が中心となって、舞台に作り上げます。シンプルな船の作り物(舞台装置)も能ならではのものです。
後半では義経が壇ノ浦で滅ぼしたはずの平家一門の亡霊が出現します。中でも平知盛の怨霊が恨みを込めて、長刀を手に襲いかかります。怨霊が海上を滑るように進む様や波を蹴立てる様をします。後半は一気に舞台が進みますので、ぜひ舞台にご注目ください。
能では前半と後半の主役を原則として一人の能楽師が演じます。〈船弁慶〉では静と知盛の怨霊という、全く異なる性格・演技の質をもった役を演じ分ける点に難しさがあります。