能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 二人静 日本語
あらすじ
正月の吉野山勝手神社では、神職(ワキ)が七日の神事の準備をすすめています。神前に供える若菜を摘んでくるよう神職に命じられ、菜摘川まで出かけて行った菜摘女(ツレ)は、そこで里女(前シテ)に呼び止められます。里女は菜摘女に自分の供養を頼むと、消えてしまいました。
急いで帰りこのことを神職に報告した菜摘女ですが、里女から供養を頼まれたことについて、あまりに信じがたいと言った瞬間に、突如里女にとり憑かれ、狂いはじめます。驚いた神職が菜摘女に憑いたものに名を訊ねると、亡霊は源義経に仕えた女だと答えます。里女の正体が、義経の恋人の静御前であることに気づいた神職は、舞の名手だった静の舞が見たいと言います。
勝手神社には生前静が納めていた舞装束がありました。静の装束を蔵から出し、菜摘女がまとうと、静(後シテ)が姿を現します。静は雪の吉野山で義経と別れた時のことを思い出しながら菜摘女と一緒に舞います。そして悲しい記憶を振り返り、再び弔いを頼むと、菜摘女の中から消えていったのでした。
見どころ
静御前は、平安時代の終わりに実在した舞の名人です。当時流行した、白拍子という男装の舞姫でした。静は源義経の恋人でしたが、義経は兄源頼朝と対立したことで京都を追われ、家来たちや静と共に逃亡の旅に出ます。『義経記』では、静は奈良の吉野山で義経に置き去りにされ捕らえられると、頼朝がいる鎌倉へ連行されます。頼朝から舞うよう命じられた静は、「しづやしづしづの苧環繰り返し昔を今になすよしもがな(幸せだった昔に戻りたい、という意味。苧環は糸車のこと)」という和歌を詠んで美しく舞います。この時の男装の舞姿を再現するため、能では烏帽子という男物の帽子を被り、長絹という袖の長い装束を着て舞います。
〈二人静〉の最大のみどころは、この舞です。能ではシテが一人で舞うことが多いですが、〈二人静〉ではシテとツレがほとんど同じ格好で、動きを合わせて舞います。これは静の亡霊が菜摘女にとり憑き、手足を借りて舞っていることを視覚的に表現したもので、他曲に例のない演出です。二人の役者が面をつけて同じ動きをするのは、非常に難易度が高く、ツレにはシテと同等の力量が要求されます。
また、クライマックスで「しづやしづ」の歌を謡って回想する静ですが、悲しみに満ちた半生を思い返すことは幸せではなく、昔のことも、あの頃に戻りたいと思うほど恋しくはないと言います。雪の吉野山で義経と別れた静の悲しみに思いをはせながら、二人の舞をご覧ください。