能のあらすじ・見どころ Summary and Highlights of Noh 大江山 日本語

あらすじ

 丹波(たんば)国大江山(京都府福知山(ふくちやま)市大江町)の鬼神、酒呑(しゅてん)童子(どうじ)を退治せよとの勅命を受けた源頼光(みなもとのらいこう/よりみつ)(ワキ)は藤原保昌(やすまさ)独武者(ひとりむしゃ)たち家来(ワキツレ)と共に、山伏姿に変装して都を出発します。やがて大江山に着くと、頼光は強力(ごうりき)(アイ)に偵察を命じ、童子の館にいる女(アイ)を仲介に、道に迷ったふりをして、館に招き入れられます。

 童子(前シテ)は酒宴を開いて、「酒呑童子(しゅてんどうじ)」の名の(いわ)れや、比叡山(ひえいざん)()われて大江山にたどり着いた経緯など、身の上を語ります。赤い顔は酒のせいで、鬼と疑わないでくださいと上機嫌で舞を披露した童子は、やがて(ねや)(寝室)に消えて行きました。

 頼光は先ほどの女から酒呑童子の閨の鍵を受け取り、身支度を整え、閨へと忍び込みます。童子は二丈(約6m)もの大きな鬼神(後シテ)と化していました。一行が斬りかかると、鬼神は自分を(あざむ)いたことに憤り、激しく戦います。しかし、最後には鬼神は頼光に首を切られたのでした。

見どころ

 ワキの源頼光はじめ登場人物が多く、ワキ方が活躍します。見た目にも派手なスペクタクルとしての要素が、全面に出される能です。

 一方、シテの酒呑童子には、気の毒な印象を持ちます。正体は鬼神ですが、前場では童子の姿で親切に山伏たちを歓待します。にもかかわらず、後場ではだまし討ちにあって退治されます。その際、鬼神は頼光らに向かって「情なしとよ客僧(きゃくそう)たち。偽りあらじと言いつるに。鬼神に横道(おうどう)なきものよ」と詰め寄ります。「鬼神に横道なし」とは、「鬼神は道に外れるような悪事をしない」という意味の(ことわざ)です。本当に恐ろしいのは鬼ではなく、人間なのかもしれません。さらに物語の背景に先住民と大和朝廷の関係が反映されている、とする見方もあります。

 また狂言方の扮するアイの活躍も目立ちます。強力(ごうりき)と都からさらわれてきてた女とのやり取りが、もう一つの物語として面白いものになっています。二人は都に帰った後に夫婦になろうと約束します。こうした物語への興味が、後世の浄瑠璃や歌舞伎の「大江山酒呑童子」などにつながった一因でしょう。

 小書(こがき)(特別演出)「替之型(かえのかた)」では、常の演出では一人で現れる酒呑童子が、二人の童(子方(こかた))を従えて登場します。二人は頼光たちに酌をしたり、酔った童子を介抱したりします。(おもて)や装束も常の演出とは変わり、より華やかな舞台となります。